新型コロナウイルスの感染拡大により政府から設けられた自粛期間が開けようとしていた6月末、家の電話が鳴った。3月末にドイツから逃げるように帰国して、家にいるだけでやることもなく、なにか少しでも生産的な活動をしたいとがむしゃらに応募した写真展の事務局の人からだった。

 

 

「今回3点の応募を受け付けておりますが、3点ともが入選した場合には3点分の出展料が発生してまいりますので、確認のお電話でございます。」

 

 

事務局は私の懐を心配してくれていたか、以前にこういったことでトラブルになったので確認しておきたかったのか定かではないが、気を遣ってくれたのは間違いなかった。3つ全てが入選した場合に10万円近い3点分の出展料が発生することは理解していたけれど、そもそも私の写真3点全てが入選するということは起こり得ることなのだろうか。自身では確率は極めて低いと判断しての応募だったのだけど。

 

 

「写真文化振興目的のコンテストですので、、写真も拝見いたしましたが3点入選の可能性も十分にございます。」

 

 

褒めていただいたような気がして満更ではなかったものの事務局の人がそう言うので、慌てて1点厳選式の選考申込に変更してもらった。事務局側の懸念通り3点分の出展料を支払うには苦境を強いられることになる。3つのうちで一番いいものを選んで本選考に回してくれるとのことで、安心して電話を切った。

 

 

そしてそんなことがあったことも忘れていた8月半ば頃、今度は手紙がやってきた。入選以上が確定し、本選考に残ったこと、ひいては12月に作品の美術館への展示が決定したというお知らせだった。この時点ではどの写真が選ばれたのかはわからなかったが、少しして選考外の2点が郵送で返却されてきたので、残った写真を知ることができた。残ったのはキューバで撮影したクラシックカーの写真らしかった。なるほど、万人ウケするやつだ。

手紙には加えて授賞式や懇親会はコロナウィルス感染防止のため中止が検討されていること、10月頃に本選考の結果をお知らせするということで締め括られていた。スポンサーは新聞社や出版社がほとんどで結構大規模なイベントのようだったので懇親会などには参加してみたかったが、こればかりは仕方がないと諦めた。

 

 

それからまた写真展のことなど頭から消えかけていた10月の中旬に、再度封書にて選考の結果がやってきた。遠方に出ており母に開けてもらった。写真を送ってもらうと、「準大賞」という賞をいただいたとのことだった。準大賞がどの辺の賞なのか知らなかったので調べてみると、上位25作品のうちのひとつに選出されたということ、応募総数こそわからないものの入選以上の作品が毎年1500点ほどあるということがわかり、結構イイ線いったのでは!と素直に嬉しかった。

地元新聞社の後援もありがたい限り

 

 

それから12月の開催までウィルスが猛威を振るわないことを祈りながら過ごし、開催に漕ぎ着けた写真展には1週間の間に世界各地で会った友人、古い友人などが訪れてくれてた。東京都美術館にわざわざ足を運んでくれた友人をひとりひとり案内し、今自分が置かれている環境や状況、展望を報告しあったりして有意義な時間を過ごすことができた。1500点ほどある作品の中で自分の作品はちょっと目立つところに飾っていただいていたので幾ばくか誇らしかったし、改めてこの機会は私にとってとてもいいものだったと実感できた。先行きの不安しかない自粛期間で萎んでいた中で応募に手をつけられた半年前の自分を褒めたかった。出展料分くらいには自己肯定感を養うことができたと思う。

 

 

準大賞、横位置1番に飾ってもらっていた。

 

しかしそもそも総合写真展とは一体、どんな写真展なんだろうか。正直応募した時にはあまり深く考えていなかった。ただ応募資格はなく応募料は無料、L判のプリントで応募できるということで「最も応募しやすい写真展のひとつ」であることは間違いなかった為、私も手が伸びたのだと思う。

WEB上で検索すると出展料がぼったくりだという意見も見られた。しかし実際に飾ってもらった身としては出力から額装、搬入撤収を一手に引き受けてくれ、作品を美術館に1週間もの間飾ってもらえ、人の目に触れる機会をいただけることを考えたらそんなにぼったくりであるとは思わなかった。この出費が痛くないと言えば嘘になるけれども。。
お金を振り込みさえすればそれ以外何もしなくても、考えなくても、寝ていても、作品が公の場にきれいな状態で人前にでてくれるのだ。プリントだって全紙サイズの大判出力であるにもかかわらず、とってもきれいにプリントしていただいたという印象だった。1500点もの作品をひとつひとつ丁寧にプリントする労力を思ったら、純粋に恐れ入る。運営のみなさまにはとても感謝しています。

 

 

しかし写真展にレベルを求めるとすれば、総合写真展は少し違うような感じがした。事務局の方が最初におっしゃっていたように、写真文化振興目的であるというのが前提だ。このコンテストはその理念に沿っていると思う。写真を嗜む者たちが写真展というものを体験し、作品展示の良さを実感する。そしてもっといい写真を撮りたい、自分で写真展をやってみたい、そういう気持ちを呼び起こすためのものなのだと思う。そういう機会をなるべくたくさんの人に与え、ひいては写真業界を盛り上げていこう、そういう在り方なのだと思う。

 

 

いずれにせよ私はまんまと策略に嵌まってしまったのかもしれない。自分の写真を見てもらえる機会がこんなに素敵だとは思ってもみなかった。今回副賞で5枚分の全紙プリント券(実費だと一枚五千円ほどかかるらしい)をもらったので自分で展示をする時に役立てたいと思っているし、どんな感じに展示したいか、なんて考え出していたりしている。

 

 

きっかけは小さなものでいいから、やってみること、自分のモチベーションに繋がりそうなことはなんでもやった方がいいこと、少しでもステップアップした自分を褒めてあげることの大事さなどを改めて実感した、総合写真展の思い出。

アフリカで会った友達が持ってきてくれた差し入れ。とてもほっこり。

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